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千葉地方裁判所一宮支部 昭和50年(ワ)56号 判決 1977年3月08日

主文

一  被告朴龍日は、原告菊池スエに対し金四九一万二九二七円、原告菊池不二子に対し金九一七万五八五五円、原告菊池タエに対し金一〇二二万一三四九円〔更正決定金一二〇二万一三四九円〕及びこれらそれぞれに対する昭和四八年一〇月二四日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告朴龍日に対するその余の請求及び被告大和久嘉夫に対する請求全部を棄却する。

三  訴訟費用中、原告らと被告朴龍日との間に生じた分を被告朴龍日の負担とし、原告らと被告大和久嘉夫との間に生じた分を原告らの負担とする。

四  この判決第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告ら)

1  被告らは連帯して、原告菊池スエに対して金五二四万八八九五円、原告菊池不二子に対して金一〇四九万七七八八円、原告菊池タエに対して金一六七八万八二七〇円、及び右それぞれの金員に対する昭和四八年一〇月二四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

(被告ら)

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(原告らの請求原因)

一  事故の発生

訴外菊池不二男(以下訴外不二男という)及び同菊池勇市(以下訴外勇市という)は次の交通事故により死亡した。

(1) 発生時 昭和四八年一〇月二三日午後六時五分頃

(2) 発生地 岩手県花巻市桜一丁目三二六の一先路上

(3) 事故車 (イ) 加害車 千葉一一―さ七五一二号

(ロ) 被害車 岩手四ひ六九五〇号

(4) 被害者 訴外不二男、訴外勇市

(5) 態様 被告朴は加害車を運転して一(2)記載の路上を宮城県から青森市に向けて進行中、前方の対向車の有無並びにその安全を確認せず、前車を追越そうとしてセンターラインをオーバーして対向車線内に進入した過失により、折から対向車線を進行してきた訴外勇市運転の被害車に衝突し、よつて訴外勇市及び被害車に同乗していた訴外不二男を即死させた。

二  被告らの責任

被告大和久は茂原市で事業を営み、被告朴を自動車運転者として雇傭しており、事故当日被告大和久は被告朴を植木の運搬のため被告大和久所有の加害車(名義は末吉和夫)で花巻まで出張させたが、本件事故はその途中の出来事である。よつて被告朴は民法第七〇九条により、被告大和久は同法第七一五条、自動車損害賠償保障法第三条により本件事故の結果について責任を負う。

三  損害

(一) 訴外不二男に関し、

1 逸失利益 金一〇九四万六六八三円

事故当時訴外不二男は満五四歳で青果商を営んでいたが、当時の収入を正確に証明する資料がないので昭和四八年度の年齢別平均給与額(月額)金一四万〇三〇〇円、年額金一七七万九六〇〇円を基礎とし、ここから三五%の生活費を控除した金一一五万六七四〇円に新ホフマン係数九・八二一を乗じる(就労可能年数一三年)とその得べかりし利益は金一一三六万〇三四三円となるが、逸失利益として頭書金額を請求する。

2 慰藉料 金八〇〇万円

訴外不二男は一家の中心であつたのでその慰藉料は金八〇〇万円を下らない。

3 葬儀費用 金三〇万円

(二) 訴外勇市に関し、

1 逸失利益 金一二八八万八二七〇円

事故当時訴外勇市は訴外不二男が営んでいた青果店に勤務していたが、その収入等を正確に証明する資料がないので、昭和四八年度の全国平均賃金を基礎に新ホフマン式計算方法で訴外勇市の逸失利益を算出すると頭書金額となる(但し当時満二四歳、年収金一一四万円、生活費控除五〇%とする)。

2 慰藉料 金七〇〇万円

訴外勇市は満二四歳で且つ独身で一家の支柱ではなかつたので、その慰藉料は金七〇〇万円が相当である。

3 葬儀費用 金三〇万円

四  相続及び損害填補

原告菊池スエは訴外不二男の妻であり、原告菊池不二子はその子供である。従つて同原告らは訴外不二男の前記損害賠償請求権を原告スエにおいて三分の一、原告不二子において三分の二の割合で相続したが、訴外不二男の死亡により強制保険金計金五〇〇万円を受領し、これを右相続分に従つて分配した。

原告菊池タエは訴外勇市の母であり、同人の前記損害賠償請求権の全部を相続したが、同人の死亡により強制保険金五〇〇万円を受領した。

五  弁護士費用

被告らは原告らの損害賠償請求に対し誠意を示さないので、原告らはやむを得ず弁護士荒木勇に損害金の取立(仮差押及び本訴)を委任し、手数料及び報酬として、原告スエにおいて金五〇万円、同不二子において金一〇〇万円、同タエにおいて金一六〇万円を支払うべき旨約束した。

六  よつて被告らは各自右の各合計金額として、原告スエに対し金五二四万八八九五円、原告不二子に対し金一〇四九万六七七八円、原告タエに対し金一六七八万八二七〇円及び右それぞれに対する本件不法行為の日の翌日である昭和四八年一〇月二四日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、この支払いを求める。

(被告朴の答弁)

請求原因第一項の事実及び同第二項のうち、被告朴に損害賠償責任があることは認める。その余の請求原因事実は知らない。

(被告大和久の答弁)

請求原因第二項のうち、被告大和久に関する部分は否認する。被告大和久は被告朴を雇傭したことはなく、事故当日被告朴に植木を運搬させたことはない。また加害車両の所有者は訴外末吉和夫であり、被告大和久ではない。被告大和久は本件事故に何らの関係もなく、責任を負う理由はない。その余の請求原因事実は知らない。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生及び責任

原告ら主張の日時場所において、訴外勇市運転の車両と被告朴運転の車両(千葉一一―さ七五一二号、以下加害車両という)が衝突し、これにより訴外勇市及びこの同乗者であつた訴外不二男が死亡したこと、右の衝突事故は被告朴が進路前方の対向車の有無並びにその安全を確認せずに前車を追い越そうとしてセンターラインをオーバーして対向車線に進入した過失によるものであることは、原告らと被告朴との間においては争いがない。右争いのない事実によれば、本件事故によつて生じた損害について、被告朴がその責任を負うべきことは明らかである。

二  訴外不二男に関する損害

(一)  逸失利益 金一〇五一万八七八二円

公文書であるから成立の真正を認めることができる甲第一号証及び原告菊池スエ尋問の結果によれば、本件事故当時訴外不二男は満五四歳であり、岩手県で青果物卸商を営み、かなりの収入を得ていたこと、その娘である原告菊池不二子は昭和四七年に東京の大学を卒業したが、それまで月額約金五万円の仕送りを受けていたことが認められ、これに反する証拠はない。訴外不二男の収入を的確に証明する証拠はないが、右の事実によれば、原告スエ及び同不二子の主張する勤労者平均賃金以上の収入を得ていたことは推定されるので、昭和四八年度賃金センサス第一巻第二表による全国性別年齢別平均賃金を基準として同訴外人の逸失利益を計算すると次のとおりとなる。

(1)  稼働期間 満五四歳から満六七歳までの一三年間

(2)  生活費 収入の二分の一

(3)  収入 一ケ月金一三万七一〇〇円、年間特別給与額金四九万六九〇〇円(昭和四八年度賃金センサスによる満五四歳の男子労働者平均収入)

(4)  現価換算方法 年毎複式ホフマン方式

(5)  計算

(137,100円×12+496,900円)×1/2×9.821=10,518,782円

以上、一〇五一万八七八二円が訴外不二男の逸失利益である。

(二)  慰藉料 金七〇〇万円

原告菊池スエ尋問の結果によれば、訴外不二男は妻である原告スエと一人娘である原告不二子を有する一家の主として家族とともに円満な生活を営んでいたものであることが認められ、これに反する証拠はなく、このような訴外不二男の立場、本件事故の態様を考えると、その慰藉料額は金七〇〇万円が相当である。

(三)  葬儀費用 金三〇万円

弁論の全趣旨により、右の金額を原告スエにおいて負担し、かつ本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

三  訴外勇市に関する損害

(一)  逸失利益 金九六二万一三四九円

公文書であるから成立の真正を認めることができる甲第二号証及び原告菊池タエ尋問の結果によれば、本件事故当時訴外勇市は満二四歳であり、母である原告タエとともに約一町二反五畝歩の田畑を耕作し、農閑期などには訴外不二男の青果店で運転手として働いていたことが認められ、これに反する証拠はない。訴外勇市の収入を的確に把握する証拠はないが、右の事実によれば、原告タエの主張する全国勤労者平均賃金並の収入を得ていたことは推定されるので、昭和四八年度賃金センサス第一巻第二表による全国労働者性別年齢別平均賃金を基準として同訴外人の逸失利益を計算すると、次のとおりとなる。

(1)  稼働期間 満二四歳から満六七歳までの四三年間

(2)  生活費 収入の二分の一

(3)  収入 一ケ月金七万五七〇〇円、年間特別給与額金一八万八三〇〇円(昭和四八年度賃金センサスによる満二四歳の男子労働者平均収入)

(4)  現価換算方法 ライプニツツ年金方式(ホフマン方式は本件のように長期間に亘るときは適当でないと考える)

(5)  計算

(75,700円×12+188,300円)×1/2×17.546=9,621,349円

以上、金九六二万一三四九円が訴外勇市の逸失利益である。

(二)  慰藉料 金六〇〇万円

原告菊池タエ尋問の結果によれば、訴外勇市は原告タエの長男であり、独身であつたが、早くに父親と死別したため一家の主柱として同原告とともに農業を営んでいたことが認められ、これに反する証拠はなく右のような訴外勇市の立場、本件事故の態様等を総合すると、その慰藉料額は金六〇〇万円が相当である。

(三)  葬儀費用 金三〇万円

右の金額を原告タエにおいて負担し、かつ、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

四  相続及び損害填補等

前掲甲第一、二号証によれば、原告スエは訴外不二男の妻であり、原告不二子は訴外不二男の子供であり、原告タエは訴外勇市の母であることが認められるので、訴外不二男の死亡により原告スエは前記二の(一)、(二)の損害賠償請求権の三分の一である金五八三万九五九四円を、原告不二子は同様請求権の三分の二である金一一六七万九一八八円を相続取得し、訴外勇市の死亡により原告タエは前記三の(一)、(二)の損害賠償請求権の全部である金一五六二万一三四九円を相続取得したことが明らかである。原告スエ及び原告不二子は訴外不二男の死亡により強制保険から金五〇〇万円な受領し、その相続分に従つて原告スエにおいて金一六六万六六六七円を、原店不二子において金三三三万三三三三円を前記損害額に充当したこと、原告タエは訴外勇市の死亡により強制保険から金五〇〇万円を受領したことは原告らの自認するところであるから、前記各損害額から右受領分を差引き原告スエ及び原告タエについては先に認定した葬儀費用各金三〇万円を加えると、各各原告の損害賠償額は、原告スエにおいて金四四七万二九二七円、原告不二子において金八三四万五八五五円、原告タエにおいて金一〇九二万一三四九円となる。

五  弁護士費用

原告らが弁護士である本件訴訟代理人に本件訴訟追行を委任し、規定の報酬等を支払う約束をしたことが認められるが、本件事故と相当因果関係のある損害として前記各認容額の約一割、即ち原告スエにおいて金四四万円、原告不二子において金八三万円、原告タエにおいて金一一〇万円を相当と認める。

六  合計損害額

原告スエにおいて金四九一万二九二七円、原告不二子において金九一七万五八五五円、原告タエにおいて金一二〇二万一三四九円となる。

七  被告大和久に対する請求について、

原告らは、本件事故は被告朴が被告大和久所有の車両を運転して同被告の業務執行中に起したものであるから、被告大和久は民法第七一五条及び自動車損害賠償保障法第三条によりその責任を負うと主張するので、この点について判断するに、これに添う被告朴龍日本人尋問の結果及びこれによつて成立の真正を認めることができる甲第三号証の記載内容は後掲証拠に照らして信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠がない。

かえつて成立に争いがない丙第二号証、第七号証の三、四、六、九、一〇の各記載、証人末吉和夫の証言とそれによつて成立の真正を認めることができる丙第一号証の記載及び被告大和久尋問の結果を総合すれば、被告朴が本件加害車両を運転するに至つた経過について次のとおり認めることができる。

被告大和久は昭和四二年頃から茂原市において工員四人を使用して自動車板金工場を経営しており、その頃から訴外末吉和夫は被告大和久のところに友人として出入りし、時々同被告の仕事を手伝つたりしていた。同被告は板金工場を営むかたわら、客の注文によつて中古車を買入れて売却するなどの斡旋をしていたが、昭和四八年三月頃、訴外末吉の依頼により普通貨物自動車千葉一一さ七五一二号(本件加害車両、以下本件車両という)を他から買入れて訴外末吉に代金三二万円で売り渡したが、同人は適当な保管場所がなかつたので、そのまま被告大和久の工場で預つていた。訴外末吉は、昭和四七年一月頃、被告大和久ほか数名の者と一緒に東北地方を旅行中、たまたま岩手県和賀郡東和町谷内にキヤラの木多数が植栽されているのを見つけ、これを買つて他に転売して利益を得ようと考え、その頃持主である訴外小笠原サナからキヤラの木三三本を買い受けたが、当座運搬の方法がなかつたため、しばらく訴外小笠原方に預つて貰つていたが、これを運搬するためと自動車解体業を営むために本件車両を買い受けた。訴外末吉は運転免許を持たなかつたため、植木運搬のための運転手を探し、また、被告大和久にその依頼をしたりしていたが、昭和四八年一〇月頃、訴外末吉と被告大和久はかねて知り合いの訴外木下三郎方に赴き植木運搬のための運転手の世話を頼んだところ、訴外木下三郎は息子であり喫茶店バーテンをしていた被告朴を紹介し、訴外末吉は被告朴に対し一往復金一万円の報酬を支払う旨申し向け、被告朴はこの条件で本件車両を運転することを承諾した。昭和四八年一〇月二〇日、被告朴が本件車両を運転し、訴外末吉と被告大和久が同乗して岩手県和賀郡東和町のキヤラ植栽現地に行つた。被告大和久は道案内ということで同乗した。翌二一日現地に着き、植栽してあつたキヤラの木のうち六本を本件車両に積み現地を出発した。訴外末吉は現地に残り、被告大和久が同乗して帰路に向つた。その際、被告大和久は訴外末吉に頼まれて金六万円預り、茂原に帰着後金一万円を被告朴に渡し、金五万円は訴外末吉に返還すべく被告朴に依頼した。茂原に運んだキヤラの木六本は当時訴外末吉が被告大和久に負つていた借金の担保に預つてくれという訴外末吉の申出により、一応被告大和久が保管した。翌二二日、被告朴は再びキヤラの木を運搬するために弟である訴外朴八龍を同乗させて茂原市を出発し、岩手県の現地に向う途中本件事故を起した。

以上のとおり認めることができる。

以上の事実によれば、本件車両の所有者は被告大和久ではなく、訴外末吉であり、また被告大和久と被告朴は元来何らの関係もなく、被告大和久は訴外末吉が自ら買い受けた植木を運搬するために本件車両を運搬する運転手を探す手伝をし、かつ、訴外末吉及び被告朴が植木を運搬するため現地に赴くに際し、道案内として本件車両に同乗したにすぎないものであるから、被告朴の本件事故は被告大和久の業務執行中のものということはできず、また以上の事実関係から被告大和久が自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者に当るとすることもできない。

八  結論

以上の理由により、原告らの本訴請求は、被告朴に対して、原告菊池スエにおいて金四九一万二九二七円、原告菊池不二子において金九一七万五八五五円、原告菊池タエにおいて金一二〇二万一三四九円及びこれらに対する本件不法行為の日の翌日である昭和四八年一〇月二四日から各支払済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、被告朴に対するその余の請求及び被告大和久に対する請求全部は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 青木昌隆)

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